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EYES WIDE SHUT/1
狩人の貝比べ
サルガッソーに屯ろしている構成員の中には、元スペーズの輩も多くいた。今ではほとんど「親分、親分」と飼いならされている。時たまウルフは金目のものをバラまいたりなどをしてご機嫌をとる。金に執着していないらしく、常日頃安物のタバコを咥え、酔えればいいとぬるいビールを飲み干している。その下で、パンサーは女遊びに派手に金を使っていた。
サタイアの部屋や武器、家具やパンツまですべてウルフの落とす金で賄っていた。欲しいといえば口座に十分な金が入るし、その使用目的はこれまでに一切追及されたことはない。その代わりとして、作戦も何も用意されず「あいつを殺せ」「あれを盗め、運べ」とだけ言われ、うまい具合にすべてをクリアしていかなければならない。その命令のたびにリスクの代償は異なる。
若者が大金を手に入れればどうなるかなど知れた事だ。「どうせすぐ死ぬだろう」と、使い捨て感覚でしか思われていないのも、サタイアのメンバーは重々承知していた。
「ったく、お前らが生き延びるほど高くつくぜ」
タバコをふかしてリラックスするウルフの前、アカツキとラナは棒立ちになっていた。
今日は売春宿で風俗嬢を娶るのに金を出し渋った男を、二人で乗り込んで殺しに行った。その男はプラズマ関連メーカーの御曹司であり、そこそこの金は持っているはずだった。だが、家にばれたくなかったのか、搾り取ろうとした矢先に傭兵を雇い店を荒らそうと企んだそうだ。
18人程の防衛軍上がりの男達である。二人はチョッキも着るまでもなく、レストランで食事をとった帰りがけに上がり込んだ。
「無理難題ばかりつきつけてくっからだ、俺らが強くなったのは」
アカツキが気だるそうにメールを打ちはじめた。
傭兵は全員殺した。弾けた頭の破片、血の回収はセリヌが清掃業者を呼び片付けさせ、屍体はアカツキのお得意の怪力で、売春宿一階の床下に放り込んだ。彼の熱量でアスファルトも溶け出し、屍体は腐らず臭わず沈み込む。
馬鹿の掃除をした後は、店主である中年の女は「ごくろーさん」と顔色一つ変えず二人を見送った。毎度よくある話なのだろうが、たまたま今日は若い二人だったからか、結婚とかいつ付き合い始めたとか面倒な話をたくさん吹っかけてきた。
「用がないなら帰る。」
「おう、明日はカイルも連れてこい」
「…明日も?」
明日もお前と顔を合わせにゃならんのか、という嫌な目をしてラナがウルフを見た。相当な嫌われようだが、彼はその状況を楽しんでいたようにも思えた。勿論、アカツキもだ。
「ラナはウルフに会うと百面相するな。仮にも上司だぞ」
「知ったことか。そのうち寝首を掻いてやるからな」
「相変わらず狙ってんのか」
待ってるぜと言わんばかりに彼は笑うと、書類を懐から出し乱雑に床に落とした。
ラナが拾うと、二人で静かに読み始めた。
電子端末が主流になった今、容易なフォーマットやコピーの難しさから、スターウルフは常に紙媒体を使用している。物体として残るゆえ、どこに何があるかを把握しておくことも簡単な事だ。
「デフトーンズ地所がカタリナの70から95地区で大規模な地上げを行うらしい。住民は15地区の新興住宅地への移住を要請されているが、現在じゃまだ5%しか完了してねえらしい。アカツキとレイ、カイルが住んでいたのはその辺だったか」
「あぁ。73地区だ」
「ほぉ…バリバリの工業地帯の社宅が多いトコか。お前らの親父も武器作ってたんだろうな」
「カイルんちの親父が。600型ブラスターとか作ってたって」
「あぁ。あそこらはKSAのお膝元だ。」
ライラット系の武器のシェアの80%が、KSA「カタリナシンセティックアームズ」が陣取っている。惑星カタリナがライラット系に併合される以前から存在しているらしく、はじめはレーザー技術による照明の会社だったようだ。それがやがて強力な攻撃力につながり、フルメタルジャケットが主流だったコーネリアの武器産業を凌駕したのだった。
アカツキ達の住んでいた73地区は人口密度が非常に高く、工業地帯に取り囲まれるような街の形状をしていた。古い高層マンションが多く軒を連ね、KSAに生き血を吸われる町工場達がキツキツに肩を並べていた。
レイ・モーガンはその町工場の息子だった。
「地上げされるってことは、KSAの工場も移転の計画がたってんのか?」
「いや、揉めてる。どうにかして退かせたいようでな、デフトーンズ地所は平和維持団体やら胡散くせぇ奴を味方につけて工場を追い出そうと躍起になってる」
アンドルフに潰され、着の身着のままの状態になった故郷の人間が再建した街だ。すべては、KSAによるインフラ整備があってこそのものだった。手元のデバイスで現在の73地区を見ると、階段が縦横無尽に広がる中、老朽化がすすみ、今にも崩れそうなマンションも多く見える。
アカツキの住んでいた家も、これほどではないがあまり良いとは言えなかった。
「武器で潰され武器で育った街みてえなもんだな…」
「なあアカツキ、ここはなんだ?」
「旧鉄工所だ。今は試験場になってるが、昔は鋳造とか金属系が盛んだったらしい。俺の家も系譜を辿れば元は鍛冶師だったと」
「炎の力もそのため生まれたと思うと不思議だ」
コーネリアの高級住宅街生まれには、全くの異次元のような世界だろう。
「デフトーンズが狙ってるってことは、あながち地下資源が目的だろうな。」
「正解だ、ラナ。目をつけてる地帯には希少金属や液化天然ガス、地熱がわんさか埋まってやがる。チマチマそれを食ってきたKSAとカタリナ人を押し退け、食い尽くした後はライラット系全土にバラまく魂胆だ。」
アカツキは顎に手を当て悩み始めた。
「ウルフとしては、それを止めたいってことだな?」
「あぁ。この依頼はKSAから来たもんだ。俺らに頼るってことは、デフトーンズも武装して強硬手段に出る可能性があるということだ。あっちには諜報特務局があるから派手なことはできねえだろうが、カタリナ人は伝統やら歴史やら、土着のものにこだわるタチだ。アンドルフ並みの爆撃されようがそこを離れねえつもりだ、何人死のうがな」
カタリナ人の名残惜しさというのは奥深くに根付いている。コーネリア人は進化を良しとするが、カタリナ人はウルフのいうとおり、そこに染み付いた因縁を強く重んじる。だが、故郷を捨てられず何人が死んだのだろうか。
父も母も姉も、たったそれだけのために死んだのかと思うと、命の軽さにため息が出てしまう。
「KSAもカタリナらしい企業だな」
「専務と今夜会合する。レオンとパンサーもスーツを着込むぜ」
古いソファから立ち上がると、窓を開けてデバイスの画面を開いた。
「セリヌが既にデフトーンズに潜ってる。戦力や武器のデータ、作戦計画が今夜10時までにくるだろう。それをカイルと確認したら、明日の朝8時にもう一度ここに来い。レイも武器調達が完了したらツラ合わせにくるし、専務からターゲットを聞いたら、3区ターミナルでクロル・デルと合流。チケットはアシッドに取らせてるからな」
今日の任務はちょっとしたお使い程度のものだったらしい。今回の件ほどの規模の話はいくらでもあったが、コーネリアを出る上、カタリナの故郷で任務を遂行するのは違和感があった。
73区には、あの事件以来一度も足を踏み入れていないからだ。
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コーネリア第2地区、インターコンツェタルホテル。エレベーター内。
「ねーねー、なんで俺連れてきたの?」
硬派な三人の男の顔から視線をさげると、下の方でぴょこぴょこと動く少女がいた。スーツをかちりと着込んだ三人に合わせ、良い所のお坊ちゃんのような格好をさせられている。
「あれ?ドレスの方がよかったか?ごめんなー、拳銃隠し持てるのそれが一番いいかなって思ってさ」
「違うって。俺くる必要あった?おっさんたち強いじゃん」
「何言ってんだ、あるとも。俺たちを守る以外にも、レオンが可愛い息子連れてきたみたいに見えるじゃないか。今日は美味しいもん死ぬほど食えるから、許してくれよ」
クロル・ベルセルクはあんまりにも童顔なため、ウルフ達が身分を偽る時に連れて来させられる。子供の前、相手も戦意をそがれるのを見越してだ。
クロル自身の強化にも非常に貢献している。いかなる凄惨な戦況や、壮絶な拷問も目の前で見させられている。精神面の成長率も相当なものだった。
「男じゃねーし」
表情をあまり変えずぶつくさと文句をいう彼女も、頭を撫でるパンサーとしては可愛い妹のようにも思っていたらしい。
頭上では、40の文字が光る。ドアが開くと、総ガラス張りの中、コーネリアのビル群の夜景が360度に広がっていた。セレブらしい豪華絢爛な面子が集まり、嫌に上品な空気が漂っている。
「待っていたぞ、スターウルフ」
ウルフが受付の前で待っていると、奥からすっとした佇まいの男が付き人とともに姿を現した。黒いスーツに黒い羽毛、艶のある頭。それもそのはず、KSAの専務はカラスである。付き人の女も、聡明そうな美しさを持っていた。
「おや、ポワルスキーさん、今日はお子さんをお連れかね」
「娘のクロルだ。」
レオンがさりげなく子供扱いをしてきて、クロルは少しだけ驚いた。軽くお辞儀をすると、「君に似ず、実に可愛らしいな」と専務は微笑んだ。少なくともこの時点で、身分を偽っていたのは気付かれていたに違いない。
「初めましてクロルちゃん。専務のタオ・シャオジュンだ。そして彼女はマネージャーのフユコだ。」
「よろしくお願いいたします」
握手を交わすと、彼女の手のひらが硬いのがわかった。ウルフとこうやってまともに話す仲だ。背も高いし肩幅もあることから、二人ともただの大卒エリートとは思えなかった。
「お前にはつまらない話だろうから、あそこで食べ物をとってくるといい」
「聞いてるのはダメなの?」
「私の仕事を理解しようとする姿勢は嬉しいな。好きにしろ」
そんなこと微塵も思ってないくせに。と口を尖らせると、横にフユコが現れて、「私もご一緒していい?」と笑いかけてきた。4人は窓際に歩いていく。タオの自慢話から始まるようで、窓の向こうにはKSAの出資したという、コーネリアの再建記念碑の方へ行った。
「クロルちゃん、おいくつなの?とってもかわいいわ」
「いくつにみえる?」
「いやーん中学一年生くらいかしら。部活は楽しい?何部?」
「う、うん。バスケ部」
「やだ~それっぽい!短髪で元気いっぱいな感じ」
ーーーくっ、悪かったなガキで。それくらいに見えているのならまだいい。本当は小学校にすら通わず、親の入ってた海兵隊の手伝いをやらされていたというのに。
だが、ビュッフェスタイルとなると目が一気に輝き始める。この店を赤字にせんばかりに大量の皿を取り、抱えるようにして肉を乗せて行った。
「あらーたくさんたべるのね。いっぱいたべて大きくなってね~」
ーーー17にしてこの身長で伸びるかよ!!伸びるといいけどさ!
身も蓋もないことを言われ、頭を撫でられる。娘のふりをし続けなければならないのは百も承知だが、こういう母性丸出しの女に子供扱いされ続けるのはどれだけ持つかということだ。
ここは立食式のパーティだから、あまり多くの皿を持てない。…この場は、食うことよりウルフ達に意識を向かわせることにした。
「見たまえ」
タオは懐から二枚折のタブレットを出し、同期しているデータを開く。デフトーンズの計画書である。最初に載っていたのは、誰が執り行うか、誰が指揮するかといった、もうほぼ彼が把握している情報である。
2ページ目へスワイプした。
「15日。…順次住民の立ち退きが始まんのか。それ以前に、KSAの話し合いすら目処がたってねえ状況だろうが。随分無茶な話だ、あと2週間は切ってる。」
「デフトーンズは半ば強引に話をつけようとしてくるもんでな。かくいう代表幹部や社長も、殺し屋を雇われ命を狙われている。金で話がつけられない代わりにだ。」
「カタリナの連中はプライドで生きてる。金じゃ動かねえから、扱いづらい。」
「だがそのプライドを捻じ曲げて、お前さんに泣きついたと言うわけだ」
「何言ってんだ。俺はアンタんとこの30%株保有してんだぜ。しかし、随分余裕だな。こんな窓際で、堂々と俺を話しようなんてな」
「わざわざのを予約しようものなら狙われる。知り合いの学会講演のレセプションパーティの場を借りたまでだ。」
スターウルフの三人に囲まれていることに安心感を感じているようだった。
タオはウェイトレスのはこんできたグラスワインを受け取り、一口飲む。クロルは夢中で飯を書き込むふりをしながら、聞き耳は常に立てていた。
「コーネリアのマンモス不動産屋に、カタリナがおっ潰されるのを見てられねえか」
「500年前から惑星カタリナの面倒を見ている。全ての住民の生命線になり平和を脅かされることなく、平和維持に貢献することこそがKSAの使命だ」
「夢ならいくらでも語れる。俺が聞きたい核心もっと深いところにあるんだろ」
わずかに声色が低くなった。ピクリとしてクロルは手を止める。それを見越したかのように、フユコが突然話しかけてきた。
「クロルちゃん、新しいお料理きたわよ。ハーブの効いたハンバーグですって!ねえ、取りに行かない?やだ、もう並んでるわ」
「っ・・・客足がのいてからでいいって」
「あの分しかないみたいよ?勿体無いわ、いきましょ。もうお皿からっぽよ」
苦虫を噛んだような顔でクロルは連れてかれてしまった。ウルフはその様子にも勿論気づいている。タオは話を続けた。
「折角あちらから食いついてきた魚だ。あそこに天然資源があることも、メディア界隈にも公にしていることだったろう?」
危機に瀕しているとは思えない、むしろこの時を待っていたと言わんばかりに口角を上げた。
「そもそも普通の企業なら罠だと思うネタだが、その罠をなぎ倒してしまえるような実力があると、デフトーンズは過信しているらしい。そら、奴らもコーネリアではかなり名の知れたレジデンスグループだ。アクアスやゾネスの開拓事業からフィチナの気象コントロール装置も、自慢の種にはなるんだろう。だが他の産業に手を出せるほど、まだ成熟しちゃいない。食いつきっぷりを見てみろ、私からしたら、ドラッグに手をして悦に浸るティーンエイジャーそのものだ。
オドネルさん、ポワルスキーさん、カルロッソさん。あなた達をついに有効に使える日が来て非常に嬉しいよ。」
タオの本音がつらつらと出てくる。それは社長の言い分すらも代弁しているようだった。これが500年もの間、カタリナの零細企業を吸収して成長してきた会社の真の姿だ。
「デフトーンズ地所を食う。」
気迫のこもったタオの目は、尋常じゃない空気にさせた。腹の中がわからないカタリナ人の、ギラギラした獣の瞳だ。
ウルフはやっと本音を吐いた、とほくそ笑んだ。タブレットの次のページに進むと、デフトーンズの雇っている民兵のリストが開かれた。遊撃手の他、銃撃戦に特化した組織もいくつか含まれている。サタイアが撃ち合いをするだろう組織も、この中に混じっている。
「上玉の遊撃手を雇っているが、お前さんにとっては毛ほどでもなかろう。レイ君という青年が武器の受け取りに来てくれたが、最新機もまけておいた。
大規模な殺し合いが起きそうだが、少なくとも執行役員のジョン・フルシチョフ、都市開発事業部長のダニエル・カートマンの首さえ飛ばせば、あとは私のものだ。」
紙の写真を二枚渡される。逆に言えば、いくら死人が出ようともこいつらを殺さない限りは金を渡せないといった意味にもなってくる。サタイアにはそれ位朝飯前だ。力を持て余し、望まない量の犠牲を出すだろうことも目に見えている。
クロルとフユコが戻ってきた。話が終わっていることに気づき、とても落胆したような表情を一瞬だけ見せていた。
「ポワルスキーさん、お子さんとってもいい子ですね!かっこいいお兄さんもいていいわね~」
「フユコさん・・・」
「みなさんお仕事はおすみで?お酒をご用意いたしましたわ」
レオンとパンサーが先ほどから一言もしゃべっていないことを気にしてのことだろうか。盆に黒ビールとウォッカを持っており差し出した。どこから好みを知ったのだろうか。
「あぁ、ありがとう。気がきく女性は本当に素敵だ」
「いやーんなぁにこのイケメン!嬉しいこと言ってくれるわねっ。」
「結婚するのだったら、君のような人がいいね。フユコちゃん」
「あぁ~んもうやぁよ~♪」
美人だということで、パンサーも口説きにかかっている。彼の歯が浮くような台詞にも、黄色い声を上げて喜ぶ様はあくまでも普通の女性だった。だがそんな隙も、微塵に感じられない。
嘘に塗り固められた女だと、彼は当たり前のように気づいていた。
「タオさんは今夜ここに宿泊されるんですか?」
「あぁそうだ。狭い部屋だが、新人時代を思い出すからとても好きなんだ」
「贅を好まない、素晴らしい姿勢だ。俺も少しは節約しねえとな」
用が済んだため、ウルフは「帰るぞ」と三人に言った。タオは勿体なさそうに引き止めたが、パンサーに適当にあしらわせ、四人は席を外した。・・・するとだ。エレベーターホールに、明らかに目つきが違う輩が何人かまとまって壁を張っていた。見覚えがある。どこぞの遊撃隊だ。
ウルフたちが出てきたのを見ると、示し合わせて大きな足音を立てて横を通り過ぎた。
「クロル、殺れ」
彼女がうなづくと、振り向いて流星錘を投げ、敵の頭を砕いた。バキだか、グシャだかの音が響き渡ると、他のメンバーが一斉に後ろを向く。隊員が倒れる瞬間するりと拳銃を抜いて、背の高い三人がクロルの頭を通り越し、拳銃を一斉に発砲した。
さながらパイロットの腕。撃ちつけるほとんどの弾が命中し、次々と男たちは倒れていく。バーの中へ逃げ込もうとする輩は、何者かにはじき返され流血しながら壁にぶつかった。
「いやですわスターウルフのお三方、銃撃戦はロビーでお済ませくださいね?」
穏やかな口調のまま、流れ作業的にとどめを何度も加える。返り血が黒いドレスにバシバシと当たるのを全く気にしてはいない。
「タオ様もおかえりですわ。さ、道を開けなさい畜生共?」
腹立たしさを全く隠しながら、威風堂々とした顔でタオは見物に顔を見せた。気迫に圧倒されつつ、屁っ放り腰で隊員が銃口をタオに向けると、クロルがすかさず腰の下に潜り込み、隊員の首元に全身で掴みかかった。
「グッ!!!離れろクソガキ!!」
「こんなのが山ほど出てくるからぶっ殺せってことだな!タオ専務!」
「はなせゴラ!ぶっ殺すぞてめえ!!」
タオがにっこりと微笑み、クロルにうなずいた。
暴れる相手の首を掴み、80度ほど回転させボキリと折る。力を失い倒れこむ男の頭に、改めて銃弾を打ち込む。レオンとパンサーはその残りを処分し、屍体を蹴って道を開ける。ウルフがエレベーターの下ボタンをおし、少し笑って手を差し伸べた。
「お先にどうぞ。本日は貴重な話をどうも。」
「オドネル君、期待しているよ。」
頭をさげ、見送ると、面白そうにウルフたちはニヤニヤと笑っていた。何が起こったのかよくわかってないクロルを、「帰るぞチビ」とウルフは首の後ろを猫のように掴んでエレベーターに乗った。
一階へゆっくりと下っていく密室の中、ずっと彼らは笑っている。
「なあ、結局あいつは・・・いい人なの?悪い人なの?」
「はは・・・何、この世に正義と悪を決めること自体無意味じゃねえか。いいかクロル、俺はあの調子乗ったジジイから少しずつ搾取している。そのうち、大口を開けて本体に食らいつく予定だ」
「・・・?・・・?」
怪訝な顔をする彼女を、パンサーがなだめるように可愛がった。
「スターウルフのポリシーは、獲物が弱るのを待つんじゃない。獲物が丸々太ってから狩る。サタイアはまだチンケな奴らしかやれてないぞ」
「それは・・・俺たちが太るまで待ってるのか?」
ウルフがさらに続ける。
「それも少なくとも考えたが、お前らが太るまで俺たちは待てねえ。狩ったとしても、カラスより旨味も食いごたえもねえ。
カタリナ人は周囲を見くびる癖があるな。チャカ作ってる癖、この世は力が全ての世界だということを忘れたようだ。クク…、応援してるぜ。そのまま骨までしゃぶり尽くしてやる」
クロルには、ウルフがサタイア一つ動かすだけで非常に大きな利益を手に入れられることを、すくなからず感じられた。好きなだけ金を使えるこの環境が見返りとしてある中、そのカゴの中で喜んでいるサタイアのメンバーを他所に、ウルフはより巨大なものを動かしている。
真に自由なのは、彼なのかもしれない。
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